あらすじ
個人航行艇を自損事故で壊してローンを抱えたエージェントが、科学者とその子犬を天王星までガードする仕事を請け負った。
想定される危険性は科学者の熱狂的なファンが一人と言う話だったはずが、宇宙旅行に出た矢先、彼らの乗る航行艇が爆発するトラブルへと撒き込まれる。
強気なエージェント×小生意気な科学者。
中間部
懐かしい夢から醒めると、驚くほど傍に五香の顔があり、俺は跳ね起きた。驚きと何処か後ろめたいようなドキドキする鼓動を宥めるように、深呼吸を繰り返す。
寝顔だけならボーイッシュな美少女風の五香の寝顔は、ノーマルな嗜好のはずの俺でもドキドキさせるほど、ヤバイ代物だった。
産まれてこの方、ウーシャン以外にときめいたのは、皆女ばかりで、股間が反応するのも女だった。
なのに、朝っぱらからクソ生意気な五香相手に反応すると言うのは、まずい。まずすぎる。
慌てて体を反転させ萎えるような事を想像している俺の背中に、寝返りを打ったらしい五香の腕がぱしんと当たる。
反射的に飛びあがり、俺は五香のほうを振り向いた。機嫌悪そうに薄く目を開けている五香と視線があい、俺は誤魔化すように薄ら笑いを浮かべた。
「おはよう。良く、眠れたか?」
「………さい」
ちっと舌打ちをして、五香は寝返りを打ちなおす。
「はあ?」
「うるさいって云ってんだよばーか。人の邪魔すんじゃねーよ、寝てるとことかよ。暑苦しいしよ」
ぶつぶつとひとしきり文句を云って、五香は犬を抱きこむようにしてブランケットを頭から被る。
「朝食はいらねーから、もうちょっと寝かせろ」
「………、はい。わかりました」
ん と云う返事の後で、すぐに五香の気持ちよさそうな寝息が聞こえ始める。
俺は一生の不覚のような、何処となくすっきりしない思いを抱えたままシャワー室へと向かった。たぶん、同じ黒目黒髪で、何処となく少女のような雰囲気の辺りが似てるから、五香とウーシャンを混同したのだ。そう自分に言い聞かせながら服を脱ぎ、擦りガラスの扉を開ける。
擦りガラスの手触りに、ざらりと舌を撫でた五香の指の感覚を思い出す。甘いマンゴーの香りを残して出ていく指の動きが口の中で再現され、思い起こしたその動きに触発されたように下肢へと熱が集まる。
指を口から抜いていく時に見た五香のどこか潤んだ瞳が、幼い好奇心に溢れたウーシャンの瞳と重なった。
「くそっ」
足の裏に冷たいタイルを感じながら、シャワーの栓を捻る。ヘッドから冷水を出して、頭から浴びる。冷たい水にいくら体をさらそうとも、高まった熱が収まる事はなかった。
俺は諦めて、目を閉じる。冷水の中でも欲望を主張し続けるそれに、指を伸ばす。
心の中のウーシャンに、おまえとあのクソ生意気な奴を同一視して済まないと詫びながら浴びた水の中で、俺は成人男性としてはちょっとばかり情けない生理現象の後始末をした。
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