それが愛とは気がつかぬまま




ジャンル:架空外国現代物


あらすじ


 好きになった人に、好意を抱いていると知られてはいけない。
 代理出産により生まれたレイは、誰からも望まれずに生まれた。ただ一人、彼の兄となったレティ以外には。
 そのレティが亡くなり、彼の恋人だったラドルに地獄から救い出され、レイはラドルに惹かれる。だが、ラドルの心にはレティが残ったままだった。
 そしてラドルはレイの主治医でもあった。好意を抱いてると知られたら、治療を外れる可能性が高い。
 心を殺す苦しい日々を、レイは優しい兄を犠牲にした日々の罰と受け止め甘んじる。
 年上攻め。


冒頭部


 摺りガラスの向こうでは、ラドルがシャワーを浴びていた。
「ラドル、俺宛に手紙とか来てなかった?」
 ガラス越しにかけた声は、上手く届かなかったらしい。ラドルは慌ててシャワーの箭を閉めると、向こうからガラス戸を引き開けた。
「悪い、聞こえなかった。なんだって?」
 鎖骨を流れていく水滴と、腿の内側に筋を作る水の跡。それらは夕べの、一人で自分を慰めていたラドルを思い出させるには十分だった。
 心臓が、耳の辺りにまで飛び上がる。湧き上がる衝動をこらえるために、俺は目を床へと落とした。
「アレンが、俺宛に手紙が来てるはずだって言ってたんだ。一年前にレティが突き落とされる前に、出した手紙だって」
「いや、来ていないが」
 ドクドクと耳元でなる心臓に、俺は今はそれどころじゃないだろうと嗜めて見る。だが、心と体は上手く連動してはくれず、熱が下肢へと集まり始める。
「話が本当なら、……どんな内容だったのかなって」
 それだけと言って、踵を返し、バスルームを出るべきなのに。俺の体は縫いとめられたように、動く事が出来なかった。
「内容か。……おそらく、レイに宛てたラブレターだったんじゃないかな。あの数日前に、俺が薦めたからな」
 ラドルが一歩近づくのを、彼の体から出る熱で感じる。
「レティは、お前のことを愛していた。性的な欲求を感じるくらいにな。家を出たのは、いつかお前を押し倒してしまうかもしれないと悩んだ挙句だったといっていた」
 もう一歩、近づいたラドルは俺の頬へ手を伸ばす。
「結果、お前を狼の前に放り出して逃げ出したことにレティはいつも悔やんでいた。だがレティは間違いなくお前を愛していたんだ。それだけは受け入れてやってくれ」
 温かいラドルの手のひらを感じながら、俺は唇を振るわせた。脳のどこかがチカチカと警告を発したが、そのシグナルが届く前に、喉が言葉を音にしていた。
「レティを、そう言う意味で受け入れられない。……俺にも、好きな人がいるから」
 俺の声に、ラドルの手が震えた。そこで止めろと脳が体と感情に抑制を命じるが、それを無視して喉から言葉が次々と零れていく。
「レティの気持ちは、分かるよ。俺も、本当はそう感じちゃいけないのに。好きな人に触れて、そのペニスを口にしたいって思った」
 もう終わりだと嘆く脳をせせら笑いながら、感情が体を支配していく。
「好きなんだ、ラドル」

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