夏祭り〜commencement〜   



「意外だわー。石川と安田が、遠縁なんて」
 紺に朝顔を白抜きした浴衣を着た彼の元クラスメイトが、驚いたような声を上げた。
その眼の先では、彼の恋人が彼女の友人と共にアイスクリームを受けとっていた。
「そうかな?」
 そうだろうなと思いながら、石川は恋人の背中を眺める。何せかなり辿って行ったこじ付けにも等しい遠縁だった。小さな町では、そのくらい辿れば誰でも親戚になる。
 それでも、夜の祭に誘った恋人にはその名目が必要だったのだ。
 着慣れていない浴衣を着付けようと、石川の帯を結ぶ恋人の顔を思い出し、彼はふっと微笑んだ。俯き加減で真剣な恋人の面持ちを、上からのぞき見るのはまるで下肢へ唇を寄せている時を想像させた。今度、あんな風にしてもらおうと心の中で考える石川の思いを知らずか、安田は元の教え子と談笑しながら二人の元へと戻ってきた。
「みてみて。奢ってもらった」
「えー、ミキばっかり、ずるいー」
「惣田ばかり奢る訳がないだろう。ほら、佐藤の分」
 教え子達が可愛いのか、安田は笑いながら手にしていたアイスを手渡す。そして、すぐにまた自分の分と彼の分とを買いにだろう、引き返して行った。
「――ねえ、流しが終わったら、カラオケとかいかない?」
「終わったら、俺と圭介さん本家に顔出すことになってるから」
 恩師からせしめたアイスを舐めながら、佐藤が石川を誘う。ちらちらと安田の方を見る惣田が、高校時代安田に良くついて廻っていた事を思い出しながら、石川はありもしない予定を理由にその誘いを断った。そこへ、安田がアイスを両手に戻ってきた。
「えー。せっかく人込みでばったり会えたのにぃ?」
「……そういや、橋の方に瀬川が男つれていたけど」
「うそうそ! 誰? みにいこ!」
「あ、うん。センセー、ごちそうさま」
 シャチホコを模った山車が、河の真ん中へと運ばれる。人いきれがさらに激しくなる中を、少女達は石川の話しを鵜呑みにして、橋の方へと向かい出した。彼女達の背中が人込みへと消えるまで見送った安田はその後、視線を石川へと向ける。
「惣田と佐藤ばっかり、ずるいー」
 二人を真似てそう云った石川に、苦笑しながら安田がアイスを手渡した。
「俺、もっと別なのが良いなあ」
「欲張りだな、石川は」
「欲張りだからね。せっかく先生をものに出来たんだから」
 道中と呼ばれる華やかな祭囃子が突如途絶える。静まり返り、明かりさえ消された夜の川面にオレンジ色の火が灯された。シャチへと点けられた火は見る見る間に燃え上がり、船から切り離されて川面を下り始める。
「先生が良いな。うちに帰ったら、先生を貰って良い?」
 流れて行くシャチに合わせ、物悲しい音色の「流し」が、お囃子によって流れ出す。
夜空までも赤く染める焔は、安田の頬をも赤く照らし出した。


「先生?」
 浴衣の緩んだ合わせをさらに広げたそこへと口を寄せる安田を上から眺めながら、彼はそっと安田の髪へと自分の指を絡ませた。一度も脱色などしたことのないような黒い髪の触り心地を楽しんだ後、もったいないと感じながらも、口を離すように促す。
 お気に入りを取り上げられた子供のように不服そうな表情を浮かべた安田の、その額へと唇を落とし、彼は微笑んで見せた。
「先生、好きだよね。俺のこうしてしゃぶるの」
 既に肌蹴ている安田の浴衣の帯を慣れない手つきで緩め、浴衣を脱がす。
「初めてのときも、すげー必死にしゃぶってたし」
 安田の頬に朱が走る。その薄く染まった顔に吐き出した精をかけたらなどと考えながら、彼は脱がせた肌に口付けた。
「あ……れは、」
「今だって、気持ちよさそうにしゃぶってたし。俺も気持ちいいからいいけどさあ」
 人ごみの中ではぐれないように手をつないだまま安田のアパートに戻るなり、雪駄を脱ぐのももどかしく抱きしめたのは彼のほうからだった。噛み付くように首筋と胸元へとキスする彼の腕からするりと抜けてしゃがみこみ、彼が何か言うよりも早く合わせに手を差し入れて下着を脱がせ、口に含んだのは安田からだった。
 その自覚があるのだろう、いっそう頬を赤く染めて口ごもる安田を、玄関からリビングへ続くフローリングの床へと押し倒した。
 汗かそれとも別なものの所為か、湿り気を帯びた安田の下着を脱がせ、欲望をあらわにするそこへと手を這わせる。
「俺ね、先生の気持ちよさそうな顔見るの好きだし」
 先端を、その括れを擦り上げる。
「先生に、好きって云われるのもすげー気持ち良くて、好きだし」
 持ち上げたひざに、口付ける。ぴくぴくと震える内腿へもキスを落として、彼はひっそりと笑った。
「石川……」
 安田の腕が、彼を求めるように伸ばされた。ゆっくりと足を離し体を傾け、背へと廻された腕に引かれるように安田の上へと覆いかぶさった。
「石川が、好き」
 かすれる安田の声が、彼の耳を甘く震わせた。
「俺も、好きだよ。……安田サン」
 赤く染まったままの安田の耳元で微笑んで、彼は安田の足を大きく広げさせた。


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2004.08.15初稿
2004.09.05加筆

夏コミ用ペーパーのおまけ小説。
サイト用にエチシーン書き足し。