それが愛とは気がつかぬまま




ジャンル:架空外国現代物


あらすじ


 好きになった人に、好意を抱いていると知られてはいけない。
 代理出産により生まれたレイは、誰からも望まれずに生まれた。ただ一人、彼の兄となったレティ以外には。
 そのレティが亡くなり、彼の恋人だったラドルに地獄から救い出され、レイはラドルに惹かれる。だが、ラドルの心にはレティが残ったままだった。
 そしてラドルはレイの主治医でもあった。好意を抱いてると知られたら、治療を外れる可能性が高い。
 心を殺す苦しい日々を、レイは優しい兄を犠牲にした日々の罰と受け止め甘んじる。
 年上攻め。


冒頭部


『ねえ、まだ何も感じない?』
 甘く掠れたハスキーな声が、部屋に響いた。
 聞きなれたような、聞いたことのないような甘い声に、俺は辺りを見回した。
 到底上品とはいえないバーの片隅。赤いビニールのソファの前で、いろんなところが透けて見えそうな布地のナース服に身を包んだやつが、客のひざの上で腰を揺らしている。
『ねえ、俺のこと見てよ』
『見てるよ、ちゃんと。ああ、とてもセクシーだ』
 二人の会話に、俺は鼻で笑ってしまう。ああいうプレイは、グラマーな女がやるから興奮するんだろうに。丸みのない男がやったって、扇情的でもなんでもない。
『そうでもないさ。今すぐ、食べてしまいたいくらいに官能的だ』
 心の中の嘲笑に、ソファで鼻の下を伸ばしていた男が答えを返す。
 え? と疑問に感じた途端に、男の顔がすぐ正面にあった。
『ねえ、俺を見てってば』
 甘く掠れた声。男の手が、ピンク色の服の上を腰から尻にかけて動く。
『ちゃんと見てるさ、レイ。……ああ、たまんないね』
 にやりと笑うアッシュブラウンの男の目に、俺が映っていた。
 ずり落ちかけたナースキャップ。肌が透けて見えるナース服。潤んだ目で男を見ながら、堅く勃った自分のそれを、男のジーンズへこすりつけるように腰を揺らす。
『ねえ、お願いだから俺を見て。見てよ、ラドル』
『見てるよ、レイ、全部だ。お前のいやらしい嬌態も、はしたないここもな』
 男の口元が動くたびに、鼻にかかった嬌声を上げるナースは。
 笑いながらそれを見ている男は。
『もうダメ、ラドル。見ててよ、絶対だよ』
『ちゃんと見てるよ。浅ましく、逐情するまでな』
 男はラドルで、ナースは。
『見てよ、俺のこと』
 腰を震わせ、触られたわけでも入れられたわけでもないのにナースは声を上げて精を撒き散らす。
 鼻につく自分のものの臭いと、ラドルがいつも使うベルガモットに似たシトラスの香り。安っぽいアルコールの臭いが混じりあい、高いところから地面へと叩きつけられるような浮遊感に体中の力が抜ける。
『ラドル、俺を見て。ねえ、俺を見て』
 そのナースは、俺だった。

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